富裕層だったら絶対気になる相続の話

相続税を払う人・払わない人

 小久保さん(仮名)は、昔からお世話になっている社長のお父様が亡くなられたと聞いて葬儀に参列していた。そこでこんな話を耳にしたのである。

「社長のお父様は相当な資産家で相続財産が多いようで、相続税を支払うのも大変らしい」

 その話を聞いて小久保さんは2年前にも自身の父親を亡くしたが相続税なんて話にもあがらなかったことを思い出した。なぜ小久保さんは相続税を支払わなかったのだろうか。今回は、そんな相続税についての話である。

相続税はレアケース

 なぜ、小久保さんは相続税を支払わなかったのか。その説明をする前にこのデータを参照していただきたい。平成21年の死亡者数1,141,865人の内、相続税が課税されたのは46,439件。これは全体の4.1%にしかすぎないことになる(財務省ホームページ「相続税の課税状況の推移」より)。100人中5人にも満たないわけだから、相続税が課税されるのはレアなケースと言っていい。

なぜ相続税がかからないのか

 これほど相続税の課税がレアケースとなるのは相続税基礎控除に理由がある。この基礎控除とは何なのか。おおまかなイメージは相続財産が基礎控除額を超えなければ相続税も課税されないという認識で問題ない。基礎控除額は次のように計算する。

 5,000万円+1,000万円×法定相続人の数=基礎控除

 例としてあげると、夫・妻・子供2人の4人家族で夫が亡くなった場合の法定相続人は3人となるから基礎控除額は8,000万円である。つまり夫が8,000万円以上の財産を残していなければ相続税は課税されないのである。小久保さんが2年前に相続税を支払わなくてすんだのも基礎控除が理由である。

 ちなみに上記の財務省のデータによれば相続税が課税された案件の平均相続財産額は21,798万円である。このデータからだけでもいかに相続税が課税されるのは、相続財産が多い富裕層に限られるかがお分かりいただけるとおもう。

 実は、この基礎控除2011年度の税制改正において引き下げられる予定だった。つまり相続税が課税されるケースが多くなる「相続税増税」が予定されていたのである。この改正は先送りになっているが、改正案自体がなくなったわけではないので、今後も注意が必要である。

相続税対策

 さて、相続税が大変らしいと噂をされていた社長だが、実際は事前に対策を行っていたため何の問題もなく相続税の納付がすんでいたそうだ。では、どのような対策を行っていたのだろうか。

1.遺産分割を決めておく

 社長が行っていた対策の1つが、「遺産分割を決めておく」ことだ。相続でよく問題になるのが、この遺産分割である。兄弟などで誰がどの財産を相続するのかもめてしまい全く決まらないなどというトラブルは実際に耳にされた方もいるかもしれない。

 いわゆる「相続」ではなく「争続」である。相続に関する登場人物が増えるにつれて「争続」にはなりやすくなる。一見、相続税とは関係ないように思えるかもしれないが遺産分割を決めるということは相続税の申告においても重要なこととなる。

 相続税の申告期限は10ヶ月以内なのだが、この期限が到来してもまだ決まっていない場合には法律の規定により分割したものとして申告することになる。ここで重要となるのが未分割の場合だと受けられない相続税を減額する特例が存在するということだ。特例の内容に関しては今回は割愛させてもらうが、申告期限後に分割することにより修正申告や更正の請求で特例を受けるのも期限が存在する。

 何より最初の申告時には高い相続税を支払うことになる。つまり事前に遺産分割について決めておくということは大事なことなのである。ただ、将来のことを考えると税金対策よりも相続時における親族間のトラブルを避けるというメリットの方が大きいかもしれない。

2.生前贈与

 亡くなられた方のことを相続税法では被相続人と言う。この被相続人がまだ存命であるうちに財産を子供や配偶者に贈与していくことを生前贈与と言う。当然、贈与についても贈与税が課税されるが基礎控除110万円が存在する。一年間に110万円までは贈与税が課税されないことになるのだ。

 贈与と相続は密接に関係していて、生前贈与に関しても亡くなる3年前までのものは相続税に課税しなおされるが、それよりも前のものは加味されることはない。つまり早い段階から生前贈与により財産を子供に移していけばその分相続税を押さえることにつながるのだ。

 相続税は他の法人税所得税とは違い特殊な税金である。その為、早い段階から計画的に相続に対する対策を考えていく必要があるだろう。

 上記は社長も実践していた手法であるが、ここで紹介した2つの方法以外にも相続対策として事前にできることはある。

相続時精算課税

 ここまでは将来相続税が課税される可能性の高い人向けの話をしてきた。ここからは、相続税なんて関係ないと考えている人にも役立つ話をしておこう。それが相続時精算課税である。相続時精算課税とは贈与の一種であり、上記の贈与の基礎控除額が2,500万円まで受けることができるのである。ただし、一般的な贈与とは大きな違いがあり相続時精算課税により贈与した財産は必ず相続時に課税されることになる。そして上記の生前贈与が使えなくなってしまうのだ。

 つまり相続対策として上記の生前贈与を考えている方にはデメリットが大きくなってしまう。しかし将来相続税は課税されない方で2,000万円ぐらいの財産を早いうちに子供に贈与しておきたいと考えている方にはぴったりの制度と言える。そもそも親から子への財産の移転を促すための制度だから、当然とは言えるのだが。

相続税は財産の評価で決まる

 相続税額は何で決まるかと言うともちろん相続財産の価値である。しかし今回、相続税の中でも最も重要なその財産の評価についてはあえて触れてこなかった。

 というのも、財産の評価は種類ごとに様々な評価方法があり複雑な計算が必要になってくるものもあるからだ。例えば土地だけでも土地の形、道路に面している状況、居住用か事業用か、などその状況に応じて評価方法が変わってくる。この評価方法を誤ると相続税額が大きく変わり、多く納付しすぎたり、税額を少なく申告して後の税務調査で追徴課税を支払うなどということがある。

 特に個人にかかる税金として相続税は金額が大きくなるケースが多いので不安や疑問を感じることがあれば税理士に相談することをお勧めしたい。もちろん当事務所において相続専門の税理士によるアドバイスを行っている。

http://moneyzine.jp/article/detail/200774?p=2