貧困層の命救う使用済みペースメーカー、インド

【11月22日 AFP】インド・ムンバイ(Mumbai)に住むパワルさん(61)は、3年間、低脈拍によるめまいに苦しんできた。今年9月には心拍数が1分間に20〜30回程度にまで減ったが、ペースメーカーを埋め込んだおかげで死なずにすんだ。

 心拍数を正常に戻すためにペースメーカーを使用することは今や普通だが、パワルさんの場合は「使用済み」という点が普通ではない。もともとは米国の患者が使用していたもので、死後に体内から取り出され、無償で提供されたのだ。

「調子は随分いいよ。めまいもなくなった。新たに人生が始まった気分だね」と、パワルさん。

■葬儀場から提供

 パワルさんが通ったムンバイの私立病院「聖家族病院(Holy Family Hospital)」は、貧困層の患者を救済するというイニシアチブのもと、約10年前に米国から使用済みペースメーカーのもらい受けを始めた。インドでは、新品は最大で15万ルピー(約22万円)と、大半の人には高根の花だ。

 イニシアチブの立役者は、インド生まれで米ペンシルベニア(Pennsylvania)州の心臓医、ダニエル・マスカレンハス(Daniel Mascarenhas)氏だ。

 同氏は、冠状動脈ステント(チューブ)や、不整脈を直すために電気ショックを与える植込み型除細動器なども提供してきた。器具はすべて、患者の体内から取り出したものか、未使用だが有効期限が切れたものだという。

「他の医者はゴルフに行くが、僕は葬儀場に行く。寿命が5年余っているペースメーカーを見つけることは金塊を見つけるようなものだよ。これで、金銭的な余裕がない患者を助けられるんだから」と、マスカレンハス医師は語った。

 2004年から2010年の間に、米国の複数の葬儀場から長期ペースメーカー53個が寄付され、消毒と調整のあと、聖家族病院に提供された。これまでのところ、感染症などの深刻な合併症や器具の故障の報告はないという。

■規制上、倫理上の障壁も

 マスカレンハス医師らは、イニシアチブを拡大させたいと考えているが、規制上の問題があることも承知している。

 リスクを恐れるメーカー側と規制当局はペースメーカーの再利用を認めていない。ペースメーカーのリードは本来、再利用できる作りにはなっていない。さらに、倫理上の問題もある。

 だが、発展途上国で心臓治療を提供するNGO「Project Pacer International」は、イニシアチブの利点を指摘した。「(提供を受ける)患者の家族から同意を得ることは不可欠。だが大半のケースでは問題にならないだろう。(使用済み)ペースメーカーがもう1つの人生を与えてくれるという大きな利点の方が待ち望まれているからだ」(c)AFP/Phil Hazlewood

http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2841891/8116530