変わる葬儀観 親と子、夫婦間の絆を深める

死をタブー視せず、生前から死と向き合う人が増える中、東日本大震災を機に日本人の葬儀観が変わってきている。専門家は「故人との別れを大切にする『家族葬』のような葬儀が注目されていくだろう」と予測。葬儀を通して故人の隠れた一面に気づき、親と子、夫婦間の絆が強まる。セレモニーを代行する葬祭業の役割も変わってきそうだ。(日出間和貴)

質の高い別れ

 「ここ数年、見えを張らず手頃な料金に抑える葬儀が増える傾向にあったが、3・11以降、その傾向はさらに強くなっている。ただ、何でも簡略化するというわけではない。見た目の演出を省いて料金を抑える一方で、家族の絆を再確認するような葬儀への需要が増している」

 こう話すのは、「家族葬」を全国展開する「エポック・ジャパン」(東京都港区)の高見信光社長だ。同社では「貸し切り型」の葬儀で、故人と家族が過ごす最後の時間を大切にしてきた。

 同社が震災後に行った調査で、3割の家庭で「話したり連絡したりする機会が(震災以前に比べて)増えた」としている。親子が離れて暮らす家族では4割が「連絡機会が増えた」と答えており、震災は家族の大切さや絆を気づかせる影響を与えたようだ。

 高見社長は「生前から葬儀のやり方を葬儀会社と話し合って準備する、言い換えれば『遺言信託』のような傾向は今後、強まっていくだろう」と話す。

 日本人は「死」を日常生活から遠くに置く傾向があったが、震災によっていや応なく死と直面させられた。経済産業省が8月にまとめた報告書「安心と信頼のある『ライフエンディング・ステージ』の創出に向けて」は、人生の最終段階について興味深い提言を行っている。

例えば、葬祭業を「遺族をサポートするための究極のホスピタリティー産業であるべきだ」と位置付け、近親者が世代を超えて同じ時期に集い、死別の事実を共有するという点で「質の高い十分な別れの時間を取ることが必要」としている。

喪失の儀式

 葬送ジャーナリストの碑文谷創(ひもんや・はじめ)さんは、東日本大震災阪神大震災以上に日本人の葬儀観に影を落としているとみる。「震災から間もない頃、葬式ができる幸せということが言われた。『死者を弔う』という葬儀本来の目的に光が当てられ、きちんと故人と別れ、きちんと見送るという原点回帰の方向に向かっている」

 碑文谷さんは、葬儀の段取りなどの業務を遺族との間で行う「葬祭ディレクター」の存在にも注目する。

 「震災後、故人を囲んだ時間を大事にする傾向が強まる中、葬祭ディレクターが遺族にどう寄り添って親身になっていくか、その役割が問われていきそうだ。葬儀の場面に限らず、遺族の喪失感や悲しみを和らげることは、派手な祭壇で演出するよりも遺族に受け入れられるだろう」

 精神科医香山リカさんは著書『しがみつかない死に方』(角川書店、760円)で、葬儀には「遺(のこ)された人たちの『喪失の儀式』という役割もある」と指摘。死と向き合う時間の有無が「心の回復」に差を生むとしている。

 「故人らしさ」を最も心得ているのは、その配偶者であり、子供である。生きているうちにどんな葬儀をしたいのか、家族など近親者に伝えておくことで遺された者の負担は軽減されそうだ。

http://sankei.jp.msn.com/life/news/111005/trd11100507330000-n2.htm