【知恵の経営】被災者を支援する被災地の企業

 □法政大学大学院政策創造研究科教授 アタックスグループ顧問 坂本光司

 仙台市で開催された学会に出席した機会を利用して、仙台駅からタクシーで20分ほどの場所にある「清月記」という社名の中小企業を訪問してきた。訪問のきっかけは、東日本大震災で自社も甚大な被害を受けたにもかかわらず、その事業の使命と役割を果たすべく、震災から約2カ月間、全社一丸となって不眠不休で被災された地域住民に奉仕し続けたと聞いたからである。

 ◆創造的に破壊

 清月記は現社長の菅原裕典氏が、小学校5年生のときに描いた人生設計どおり、大学を卒業して同業者で1年の修業をした後、両親の支援を受けて1985年に創業した葬儀会社である。

 仙台市内には現在、44社の葬儀社があるが、その中で清月記は最後発企業である。しかしながら、創業から一貫して「業界の常識は世間の非常識」と、古き悪しき慣習や制度を創造的に破壊していくとともに、一人一人のお客さまに対しては、「絶対にノーと言わない」感動サービスを提供し続けた。

 こうした努力の甲斐あって着実に市民の評価を高めていき、業績は創業以来25年連続で右肩上がりであるばかりか、今や仙台市内は言うに及ばず、東北・北海道地区でみても最大規模になるまでに成長発展している。

 こうした正しい経営を愚直一途に貫いてきた清月記に対しても、3月11日の東日本大震災は容赦なく襲いかかり、甚大な被害を与えた。同社は仙台市を中心に岩手県内などに十数カ所の斎場や仏壇・仏具の販売店を有しているが、そのうち数カ所は、床上浸水や半壊状態となった。そればかりか、全ての斎場で調度品・備品や販売店の商品類も多大な被害を受けた。

◆ミニ仏壇提供

 未曽有の大惨事であるにもかかわらず、翌3月12日には250人の全社員が出社して「今こそ当社の使命を果たそう」と誓い合った。そして、被害が比較的小さかった斎場を整理して、身元の分からない遺体の仮安置所として県に提供し、遺体の尊厳を守り続けたばかりか、別の斎場は全国各地から続々と送られてくる棺の倉庫として提供した。

 さらに、最も過酷で困難な遺体の仮埋葬や、その後の掘りおこしをする作業なども、全国各地から派遣された自衛隊員と共同して行ったのである。

 これらだけでも頭の下がる思いがするが、同社はさらに祈りのシンボルである仏壇をも失った人々のために、京都のメーカーに「ミニ仏壇」を発注し、1500世帯に無償で提供している。

 一方、この間に同社の飲食部門は、社員と家族や地域住民の命と生活を守るため、食材を無償で提供し続けた。

 関係業者とはいえ、こんなにも献身的にがんばる中小企業の存在を見せつけられると、「傍観者であってはならない」「利他の心を持て」と、声を大にして言わざるを得ない。

http://www.sankeibiz.jp/business/news/110921/bsl1109210503005-n1.htm