エンディングノート(バンダイビジュアル)

「ちゃんとした死」映す

 監督助手として是枝裕和らの作品に参加してきた砂田麻美の初監督作。題材は、自らの父、知昭さん=写真左=の死の準備期間。胃がんと告知されてから、69歳で他界するまでの半年間を撮り続け、映画にした。

 そう聞いて想像するであろう映画と、この作品は多分違うはずだ。家族という極私的な存在を見つめた映画なのに人ごとに思えない。死という悲痛な出来事をめぐるドキュメンタリーなのに悲惨ではない。なぜか。多くの人があこがれる「ちゃんとした死」が映っているからだろう。

 砂田監督は、家族ならではの親密さと、映画作家としての観察眼をもって知昭さんを、時にユーモラスに、時にシビアに、とにかく率直に映し出す。

 その知昭さん、魅力的な人である。高度経済成長期を支えた熱血サラリーマン。何をするにも段取りをしっかり、とてもきちんとしているが、がつがつ、せこせこしていない。

 始末の良さは、がんがわかった後も変わらない。残された短い時間をこの人はきちんと生き続ける。葬儀の計画をたて、家族への覚書を作り、肉親との大切な時間を大事に過ごす。その段取りの何と見事なこと。

 映っているのは、ちゃんとした死であり、ちゃんとした生。そして、それは、人の可能性を、見る者に夢見させてくれる。

 ネガティブなイメージで語られることの多い企業戦士という存在が、少し違った色合いで見えてくるのも面白い。監督のまっすぐな視線は父親の歩んで来た時代をも明るく照らし出している。

1時間30分。新宿ピカデリー

(2011年9月30日 読売新聞)

http://www.yomiuri.co.jp/entertainment/cinema/creview/20110930-OYT8T00802.htm